こんにちは、東京紙器です。
今回は、福島県いわき市にある密蔵院賢沼寺(けんしょうじ)様からご依頼いただいた切り絵御朱印のご紹介です。
賢沼寺は、古くから弁財天信仰の地として知られる名刹です。その名前は、境内にある「賢沼(かしこぬま)」に由来し、神秘的な大ウナギや、江戸時代に建立された壮麗な「密蔵院楼門」など、多くの見どころが詰まっています。
今回製作した切り絵御朱印では、賢沼寺の象徴とも言える大ウナギと楼門をテーマに、寺院の歴史や魅力が表現されています。その背景にある物語や見どころを紐解いていきましょう。
目次
密蔵院賢沼寺とは
密蔵院賢沼寺は、福島県いわき市の沼ノ内港からほど近く、小高い山の上に位置する真言宗智山派の寺院で、沼之内辨戝天(ぬまのうちべんざいてん)とも呼ばれています。その歴史は平安時代初期の807年に遡り、徳一大師が開山した後、光蔵律師が弁財天を勧請してお堂を建立したことに始まります。
徳一大師は、東国での布教活動に尽力した名僧で、特に磐梯山の噴火によって疲弊した会津地方の救済に尽くし、仏都会津と呼ばれる仏教文化繁栄の礎を築いた人物として知られています。
徳一が会津へ向かう道中、現在のいわき市周辺に上陸した際も、賢沼寺をはじめとする数多くの寺院の開創に携わりました。
密蔵院賢沼寺はその一つとして、今も地元の人々に親しまれる歴史ある寺院です。
賢沼寺の見どころ
賢沼寺には、欠かすことのできない見どころが2つあります。それが江戸時代に建築された密蔵院楼門と、境内にある賢沼です。
密蔵院楼門
密蔵院楼門は、江戸時代中期に建築された貴重な建造物で、いわき市の有形文化財に登録されています。この楼門は、和様と禅宗様の折衷様式が特徴で、当時周辺を治めていた磐城平藩(いわきたいらはん)の庇護を受けて、1747年から翌1748年にかけて建築されました。
建築の記録として残る棟札には、大工棟梁の平鎌田の杢七(もくしち)と、木挽きの甚三郎の名が記されています。楼門は三間一戸(横幅が三間、中一間が戸口)という構造で、屋根は入母屋造りの銅板葺き。軒を支える斗栱(ときょう)間には美しい透かし彫りが施されており、虹梁(こうりょう)や建築様式の違いが見て取れる木鼻(きばな)にも繊細な細工が見られます。
これらの意匠は、当時の技術力と芸術性の高さを物語るもので、建築美術としても大変貴重な文化財です。
賢沼(かしこぬま)
楼門をくぐり抜けるとすぐに見えてくるのが賢沼寺密蔵院弁天堂で、その眼前に広がるのが賢沼です。賢沼は、河川からの水の流入はなく、周囲の雨水が流れ込むことで形成された自然の沼地で、伝承によるとここで、徳一大師が坂上田村麻呂の戦勝を祈念し千垢離(せんごり)を行ったといわれています。
千垢離とは、神仏へ願掛けをする際に、心身を浄めるために水を浴びることです。賢沼は、河川からの水の流入はなく、周囲の雨水が流れ込むことで形成された自然の沼地です。
水の神である弁財天の信仰と、不殺生を教える仏教の影響から、この沼では昔から魚や鳥を捕ることが禁じられ、自然環境が保護されてきました。現在では普通サイズのウナギが時折見られる程度ですが、かつては大ウナギの生息地として知られ、「賢沼ウナギ生息地」として国の史跡名勝天然記念物に指定されています。
賢沼ウナギとは
賢沼の大ウナギは、賢沼寺を象徴する生き物で、切り絵御朱印のモチーフにもなっています。絶滅が器具されているニホンウナギが巨大化したもので、全国的にも非常に珍しい存在です。
昭和14年に天然記念物の指定を受けた際には、「古来より地域の方々に愛護された巨大ウナギが餌に食いつく様子は壮観である」との記録が残されています。
1990年代頃までは、実際にその様子を見ることができ、多くの観光客で賑わっていたそうです。現在ではその姿を目にする機会は少なくなりましたが、地域の人々にとって今なお特別な存在であり、賢沼寺の象徴として語り継がれています。
切り絵御朱印のテーマは「再生」
製作した切り絵御朱印は、「密蔵院楼門」と「賢沼の大ウナギ」をモチーフに、「再生」をテーマにデザインされました。このテーマには、歴史ある文化財と自然環境の再生に向けた願いが込められています。
楼門は建造から280年余りが経過し、老朽化が進んでおり、その補修が今まさに必要とされています。一方、大ウナギは、水質悪化や遡上水路となる河川の環境変化の影響を受け、現在ではほとんどその姿を見られなくなりました。
こうした課題に対し、地域一体で取り組みが進められています。賢沼寺もまた、縁日を始めとした行事の拡大を通じて、現状と再生に向けた取り組みを周知しています。
かつての姿を再び寺内に「再生」するための第一歩として、今回の特別御朱印が企画され、弊社に製作をご依頼いただきました。
御朱印のデザイン
完成した切り絵御朱印は、細部まで細やかな加工が施された、美しい仕上りになっています。
デザイン全体には四季折々の草花があしらわれ、その中を大ウナギが昇り龍の如く優雅に泳ぐ姿が描かれています。その横には、大ウナギを見守るように堂々と構える密蔵院楼門が配置され、三間一戸の造りなどが切り絵で丁寧に表現されています。
さらに、紺色のシックな用紙が御朱印全体に静寂と荘厳さを与え、切り絵の繊細なデザインを引き立てるよう、文字部分には金の箔押しが施され、「沼之内辨戝天」の文字がきらびやかに浮かび上がる豪華な仕上りです。
おわりに
賢沼寺の切り絵御朱印はいかがでしたでしょうか。歴史、物語、そして再生への願いが込められた御朱印は、ただの旅の記念品以上の価値があると思います。御朱印に込められた背景や物語を知ることで、参拝の思い出がより深いものになるのではないでしょうか。
東京紙器では、御朱印の製作だけでなく、こうした記事執筆を通じて、神社やお寺と参拝者のつながりを深めるお手伝いをしています。オリジナル御朱印の製作に関するご相談やお困りごとがありましたら、お気軽にお問い合わせください。
“Ideaを形に。”
参考サイト
密蔵院賢沼寺 公式インスタグラム
https://www.instagram.com/kensyouji.iwaki
うつくしま電子辞典 賢沼と龍門寺の井戸
https://www.gimu.fks.ed.jp/plugin/databases/detail/2/18/78
うつくしま電子辞典 賢沼ウナギ生息地
https://www.gimu.fks.ed.jp/plugin/databases/detail/4/28/396
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参考資料
(資料)賢沼の水環境について
https://library.fukushima-nct.ac.jp/4904.pdf
※PDFが開きます
(資料)地域活動を組み込んだ環境教育プログラムの作成と実践
https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-23501082/23501082seika.pdf
※PDFが開きます
(資料)いわき市の資料集 31頁及び101頁
https://www.city.iwaki.lg.jp/www/contents/1001000004777/files/19-33.pdf
※PDFが開きます
https://www.city.iwaki.lg.jp/www/contents/1001000004777/files/97-116.pdf
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